大判例

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福岡高等裁判所 昭和31年(う)367号 判決

論旨は要するに、被告人は原判決言渡当時懲役刑の執行中であつたから、これに対し執行猶予の言渡をなし得ないのに拘らず執行猶予を言渡した原判決は違法であると主張する。そこで記録によれば、本件は原審裁判官青山友親において審理の上昭和三〇年一月一九日終結し判決宣告期日を同月二六日と指定したところ、被告人が右期日に出頭しなかつたので同裁判官は期日を同月三一日次いで同年二月七日と指定したが、いずれも被告人の転居先不明のため召喚状の送達不能となり、その後事件は裁判官神保修蔵に引継がれ、同裁判官より同年九月二二日附を以て熊本地方検察庁検事正宛被告人の所在捜査嘱託がなされて捜査の結果、被告人が同年七月二〇日玉名簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年に処せられ該判決は同月二六日確定し、長崎刑務所において右刑の執行中である事実が同年一〇月二八日原裁判所に判明したのである。ところが事件は更に裁判官真庭春夫に引継がれ、同裁判官は同年一二月二一日裁判官青山友親によつて作成された裁判書に基き「被告人を懲役一年に処する。但し右刑の執行はこの裁判確定の日から四年間猶予する。訴訟費用は全部被告人の負担とする」旨の判決を言渡した事実が明らかである。ところで刑執行猶予の言渡は弁論終結当時その要件を具備していても判決言渡当時之を欠ぐに至つた場合にはなしえないこと言をまたない。記録によると原審弁論終結当時には被告人が前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者であつたこと明白であるからその当時なら刑執行猶予を附するも毫も違法でなかつたが、その後判決前に前記の通り処刑されたのでも早被告人に対し刑執行猶予の言渡をなすことは法律上許されないことになつたのに拘らず、原審が前記の通り刑執行猶予の言渡をなしたのは前記処刑の事実を看過し刑執行猶予の要件が依然存続するものと誤認したか或は刑法第二五条の解釈を誤り同条を不当に適用したかに外ならざる所いずれにしても原判決は破棄を免れない。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)

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